早いもので兄が他界してから四十九日が過ぎた。男兄弟との交流はほんのわずかでしかない。妹に先立たれて兄との二人だけの兄妹。兄に会うのは父母の墓参りと称して兄の会社を経由するようにして、その時に顔を見て多少の会話をするのが数年続いていた。
その兄が珍しく、家に来てくれと言ってきたのが春先の事。「俺に万一の事があったら」と渡された一通のメモ書き。そこには事細かに葬儀の段取りが書かれていた。正月に我が家と合同の温泉旅行に行った時には、肺がんの宣告を3年前に受けていたがそこまで考えている素振りはなかった。まだまだ大丈夫と思っていたのは、嫁である義姉と私だけだったようだ。
メモ書きを渡されてから3か月、あっという間に別れの時が来た。決心覚悟の兄に比べたら取り残された身内は不甲斐ないくらいに何もできない。それに比べて兄が希望していた「親しい人にだけ別れを告げたい。」と言っていた友人達が全ての段取りをしてくれた。兄に頼まれたのは昨年の夏頃だったそう、ワイワイやりながら酒が好きだった兄は友人達に冗談ともつかない本音を託していたらしい。本当に良い友人に囲まれて兄を送ることが出来た。
「香典は一切受け取らない。」「戒名も位牌も宗教もなし。」「お通夜は盛大に飲み放題、俺の棺をテーブル代わりにしてくれ。」メモ書きには諸々書いてあり出来る限り希望通りにしたつもりだ。遺言書には「一切の財産は妻に相続させる。」と
書いてあった。お前には残さないよと、遺言書のコピーを渡されていたので、かえってホッとしている。子供のいない兄夫婦にとって遺言書は必要不可欠のもの、自分の葬儀を最後まで取り仕切った兄を褒めたい。あっぱれである。
渡部